約 1,207,356 件
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/70.html
ラブ「せつな、あたしも入ってもいい?」 せつな「っっ!!まだいいって言ってないでしょ!」 ラブ「隠さなくてもいいじゃん。せつな結構オッパイおっきいんだね~」 せつな「ちょっ!触らな…あん…や…め…」 ラブ「あれ-何かせつなの先っぽとがってきたよ?固くてコリコリしてる」 せつな「…ふぁ…駄目…」 ラブ「せつな…すんごく可愛い。続きはあたしの部屋でしよっか」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/33.html
ラブ「せつな~、お菓子たーべよっ♪」 せつな「夜に食べたら太るってラブが教えてくれたじゃない。」 ラブ「う・・・ぅ。」 せつな「でもラブが食べさせてくれるなら私・・・///」 ラブ「せつな・・・///」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/402.html
「すごいねー」 「ちょっと、ラブ。みっともないわよ」 はぁ、と大口を開けて天高く聳えるビルを見上げるラブ。そんな彼女を、せつなはゆっくりとたしなめる。女の子が、 そんなに口を広げてたら、はしたないじゃない。 「けど、ホントにすごいわね」 口をキュッと閉じて、せつなは同じようにビルを見上げる。 東京、と呼ばれる都会。その中に数多くある駅の一つに、彼女達はいた。そして、駅の前のビルを見上げて、驚きの 声をあげていたのだ。 「ラブは、東京に来るのは、初めてなの?」 「うん。横浜にはたまに行ったことあるけれど、東京は初めてかな」 二人を呼ぶ圭太郎とあゆみの声に、彼女達は歩き出す。会話を交わしながらも、せつなとラブはあたりを物珍しそう に眺めていた。 「せつなも、横浜には行ったことあるんだっけ」 「ええ。でも、なんだか雰囲気が違うわね、ここは」 どうして違うと感じるのだろう。思って、はたと気付く。 空が狭いんだ、この町は それはとてもちっぽけで、だけど輝いていた きっかけは、木曜日の夜のことだった。 「え? ホテルの宿泊券?」 父、圭太郎の言った言葉に、ラブはキョトンとした表情を見せる。その顔に満足そうにしながら、彼は大きく頷いた。 「そう。東京の夜景の見えるレストランで御飯を食べて、そのホテルに泊まるんだ。家族全員でね」 「ほら、前にお父さんがゴルフのコンペに出たでしょ? そこで優勝した時の景品なのよ」 ああ、とせつなは箸を止めて思い出す。 あれは彼女が初めてコロッケを作った日のこと。約束通り、圭太郎はトロフィーを持って帰ってきた。とても嬉しそうな 顔で、せつなの作ったコロッケを食べながら、 「やー、今日は本当にいい日だなぁ。ゴルフも優勝したし、せっちゃんの美味しいコロッケも食べられるし。まさに幸せ ゲット、って感じだね」 そう言ってくれたのだ。とても、嬉しかった。 「すっごーい!! お父さん、やるー」 「やー、なになに。皆で行けるように、僕、頑張っちゃったよ」 「それでね、ちょっと急だけど、今週末に行こうかと思うの。二人とも、準備しておいてね」 はーい、と元気に手を挙げるラブの横で、せつなは一瞬、戸惑う。が、その逡巡を感じたのか、すぐにあゆみが声を かける。 「せっちゃん、お返事は?」 「え? で、でも・・・・・・」 「家族全員で、って言ったでしょ。もちろん、せっちゃんも一緒よ」 「そうそう。ちゃーんと、四人分あるからね」 「――――はい」 胸が熱くなるのを感じながら、彼女はゆっくりと言う。嬉しくて、つい、顔がにやけてしまう。愛されている、そのことを 感じて。 「じゃあじゃあせつな、明日は一緒にお買い物に行こ? せっかくお出かけするんだから、お洒落してかないとね」 「ええ、わかったわ、ラブ」 そうして、シフォンとタルトを祈里に預け、二人は両親と共に東京に出てきた。まずホテルに荷物を置き、圭太郎達と 別れて街に出る。 「あ、見て見て、せつな。あれが東京タワーだよ」 「すごく大きいのね」 「あそこはテレビ局みたいだね。そういえば前に、アタシ達の番組をやってくれたんだよ――――って言ってもプリ キュアのだけど」 「全国で放送されたの? ちょっと、恥ずかしいわね」 「銀座!! お買い物の街だよ。あ!! あれなんて、せつなに似合いそうだなー」 「そうかしら――――!? ダメよ、ラブ。高すぎて買えないわ」 「ここは、渋谷だよ。こっちだったら、アタシ達でも買えるかな」 「あの犬の銅像、ちょっと可愛いわよね」 「アタシ、一度、来てみたかったんだ、原宿って」 「あの店の服って、美希がよく着てるわよね」 彼女達は、駆け足であちこちを巡る。途中、軽く御飯を食べたりした以外は、ずっと歩き詰めで。 それでも最初は、笑みを浮かべていた彼女。だがそれは徐々に、硬い表情にと変わっていく。 「どうしたの? せつな」 駅前の、大きな交差点。信号が変わって歩き出す人ごみの中、動こうとしないせつなの顔を、ラブは覗き込む。 「顔色、悪いよ? 疲れちゃった?」 「え? ああ、ううん、平気よ、ラブ」 口ではそう言ってみたものの、確かにあまり気分が良いとは言えなかった。誤魔化しは、しかし、いつも一緒にいる ラブに通じる筈もない。心配そうな顔をする彼女に、無理矢理に笑って見せる。 「ホントに平気だって。だから、心配しないで」 「でも――――」 青に変わった信号が、また赤に変わる。車が、目の前を勢い良く通り過ぎていって。 それでもまだ、眉を寄せて覗き込んでくるラブに、せつなは小さく溜息を付いて、言った。 「ちょっと、ね――――ラビリンスを、思い出したの」 言ってしまってから、悔やむ。そんなことを言っても、仕方がないというのに、どうして。 「ラビリンスを?」 ほら、思った通り。ラブが顔を曇らせる。困らせてしまったことに、せつなは臍を噛むが、放ってしまった言葉を取り 消すことは出来ない。 「なんだかね、機械的で、冷たい感じがするの。あのビルの群れとか、人ゴミとか――――優しさが、感じられない」 信号が青に変わる。 途端にいっせいに動き出す、人の波。その動きは、一個の巨大な生き物のよう。一糸乱れぬとまではいかずとも、 統一された意思の元に制御されているかのよう。その様は、かつての母国に似ている。無表情で没個性な人々が、 整然と並び歩くラビリンスという世界に。 「せつな・・・・・・」 「そんな顔しないで、ラブ。私、こっちの世界に来て良かったと思ってるのよ」 けれど、とせつなは繋げて、少し遠い目でビル立ち並ぶ街頭を眺める。 「クローバータウンじゃなくて、この街に来てたら――――私、キュアパッションになれなかっただろうな」 この街には、クローバータウンに溢れている優しさや幸せを、感じない。暖かさやぬくもりも。 だからきっと、ここでイースは出会えない。それまでの価値観を全て覆せし、自分の人生を変えてしまうような少女とは。 「ごめんね、ラブ。変なこと言って――――困らせるつもりじゃ、なかったの」 「あ、ううん。いいよ、気にしてないから」 でもね、とラブは首を横に振った。 「アタシは、そんなこと、思わないんだけどな。せつなは、せつなだから」 そうかしら? 頭で思った言葉を、彼女は口にはしない。ただ、 「ラブは、優しいから」 そう言うだけ。 ラブが言いたいことは、わかる。私が、イースだった頃から東せつなであって、いずれキュアパッションになっていた と言いたいのだろう。 だが、彼女はそう思わない。イースは、ラブと出会ったからこそ、東せつなに生まれ変わることが出来たのだ。この街 で、そんな出会いは到底、望むべくもない。 この、ラビリンスに似た、冷たく硬質な、どこか寒々しい東京という街では。 「そうじゃなくって。んー、なんていうかなぁ」 彼女の想いをよそに、ラブはもどかしげに頭をかいている。何かを探すように、その視線が横断歩道へと向けられた その時、 「あ」 一人の老婆が、足をもつれさせて転んでしまった。おりしも、信号はチカチカと瞬き始め、青から赤へと変わろうとして いる。 咄嗟に、ラブとせつなが飛び出そうとした瞬間、 「バーちゃん、大丈夫?」 小麦色に肌を焼き、髪を金に染めた少女が、老婆に手を差し出していた。その隣にいた長い黒髪の少女は、老婆が 落とした荷物を拾い集めている。 「ああ、ごめんなさいね」 「いいって。それよかさ、怪我とかしてない?」 「ってか、荷物、重過ぎだよ、おばーちゃん。歳、考えなって」 二人の少女の口調はぶっきらぼうなものだったが、その奥には確かに老婆を労わる気持ちがあって。 すっかり赤に変わった横断歩道を、その老婆は少女達に支えられるようにして渡っていく。ようやく渡りきると同時に、 自動車がいっせいに動き出し、その流れの向こうに少女達の姿は消えていった。 「ね」 「え?」 「もう、わかんない?」 唐突に言われて、戸惑うせつなに、ラブは微笑む。 「どこにだって、あるよ。優しさは、皆の心の中に」 見えなくったってね。ラブは、そう続ける。 「皆の、心の中」 噛み締めるように繰り返して、せつなはもう一度、前を向く。 少女達の姿は、もうそこにはない。だが確かにそこには、善意があった。ぬくもりがあった。それはほんのちっぽけな ものだったかもしれないけれど、確かに存在していたのだ。 「だから、きっと、ね」 その先を、ラブは言わない。けれど、わかる。 きっと、せつながこの東京に来たとしても、やがて優しさに出会えただろう、と。 優しさに触れて、変わって行っただろう、と。 「そうね、そうかもしれない」 それは、認める。この街でも、もしかしたら。 けれど。 「けれど、やっぱり私、クローバータウンに来て良かったわ」 「どうして?」 キョトンとした顔をする彼女に、せつなは穏やかに微笑んで。 「だって、ラブに会えたんですもの」 東京に来て、ラブ以外の人と出会って、やはりイースはせつなに変わったのかもしれない。 けれど、それはどこまでも仮定の話で、現実にはせつなは、ラブと出会った。そして、生まれ変わることが出来、受け 入れられた。 それはもう、この上もなく上等の幸せ。仮定ですら、それ以上なんてありえないと思ってしまう。 「ラブに会えなくても、私は生まれ変わってたかもしれない。けれど、ラブに会えなかったら、私、ここまで幸せだった かしら」 「――――もっともっと、幸せだったかもよ?」 「でもそこにラブはいないんでしょ? だったらきっと、その『せつな』は損をしてるわ。ラブと出会う、っていう幸せを手 に入れてないんですもの」 彼女の言葉に、ラブの顔は満面の笑みに塗り潰される。そして、 「へへえー」 せつなの体に、ギュッと抱きついてきた。 「そこまで言われちゃうと、なんか照れ臭いぞー、せつな」 「ホントのことよ、ラブ」 すっかりとにやけた顔で抱きついてくる彼女に、せつなは暖かい視線を向ける。 そして彼女はふと、天を仰ぐ。 夕暮れに染まる空のほとんどが、ビルに隠れて、やっぱり狭いと感じたけれど。 やっぱり、クローバータウンと同じ空だと。 そう、せつなは思ったのだった。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/454.html
【ゆずれないもの】/恵千果◆EeRc0idolE 祈里 「大好きなの!」 せつな「そんなに好き?」 ラブ 「アタシだって大好きだもん!」 美希 「ゆずりあいなさいよ!」 祈里 「イヤ!これだけは絶対ゆずれない!」 ラブ 「アタシだってそうだよ!」 美希 「じゃあジャンケンで決めるとか」 祈・ラ「ジャンケンポン!」 せつな「ブッキーの勝ちね」 ラブ 「イヤアアアアァ!!!今のなし!今のなし!」 美希 「ラブったら!諦めの悪い子ね」 ラブ 「お願いブッキー!せめて半分こにしようよー」 祈里 「イヤ!わたしが勝ったんだから、わたしだけのものよ!」 美希 「ブッキーが独占欲むき出しにするなんて、めずらしいこともあるものね」 せつな「そんなに欲しかったの?」 祈里「 うん!だーい好き。いっただっきまーす!うふ、美味しい!」 ラブ 「ウッウッウッ、アタシの大好きなチョコドーナツがぁ…」 美希 「何も泣くことないでしょ!カオルちゃーん、ドーナツ追加ね」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/92.html
それは、せつなが私と一緒に暮らし始めてからしばらく経ったある日の事。 寝よ うとベッドに潜り込んだ時の話。 「ラブって好きな人とかいるの?」 せつなからのメールだった。隣の部屋なんだから来て話せば イイのにってその時 は思った。 「うぅん、いない。恋愛すらまだした事ないよ。」 今思い返せば素っ気無い返事 だったなぁって。 「告白されたら嬉しい?」 「そりゃ嬉しいよ~。今まで経験した事ないし、相談ばっかされてた方だもん。 」 「わかった。ありがとう。おやすみラブ。」 「おやすみせつな。また明日も幸せゲットしようね!」 ごく普通の女の子の会話、メールのやり取り。むしろせつなに好きな人出来たの かなって。何か嬉しい気持ちが強かったかも。 少しばかり眠りに入った時、私の部屋にせつなが入ってきた。 「ラブ、もう寝ちゃった?」両膝を着いて小声で呟くせつな。 「どうしたの?眠れない?」 「うん…」 せつなのちょっと不安気な声。私は何の疑いもなく「おいで。一緒に寝よう。」 と言葉を返す。 「あったかい…」 せつなの安堵な声に私もホッとする。 「ずっとこのままでいれたらいいのに。」 「大丈夫だよせつな。私はいつだって味方なんだから。さっきのメールからする と誰か好きになった?」 いつしか眠たかった私の頭はせつなの事でいっぱいになり。 「好きになるのって悪い事なのかな?私、胸が苦しいの。」 そう呟くせつながあまりにも恋しくなり、私は思わず抱き締めた。 「ごめんねラブ…」 せつなは泣いていた。その姿に私は凄く愛しい感情が芽生えて。 「泣きたい時には泣けばイイよ。私が全部受け止めてあげるから。」 「うん。ありがとう。」 せつなは凄く純粋な子。私と出会えた事を本当に喜んでくれた。私もせつなと出 会えた事を幸せに思う。 「ラブ?」 「何?」 「女の子同士は好きになっちゃいけないの?」 普通なら驚く質問だと思う。ましてや今の状態を考えれば。 けど… 「いけなくなんかないよ。いろんな幸せがあってイイと思うもん。」 不思議と自然に言葉が出た。せつなを抱き締めてたからなんだろう。 「私は…、ラブの事が好き。もう自分の気持ちに嘘を付けないわ。」 電気が体中を駆け巡った。この表現が合ってるかはわからない。それぐらいの衝 撃だった。 しばらく沈黙が続き、私はこう呟いた。 「せつなの彼女になれるなら私、幸せだよ。」 「嘘。そんな優しさ…、私嬉しくない。嫌なら嫌って」 せつなの悲しい表情は暗闇の中でもハッキリわかった。 「私がせつなに嘘付いた事ある?いつだって真正面で話してきたつもりだよ?」 「うん…。でも…」 「わかった。もう何も言わなくてイイよ。」そう言ってせつなの唇を私はキスで 塞ぐ。 !? せつなの体は少し震えたけど、これが私の最高の返事だと思った。 「正直に言ってくれてありがとう。私嬉しいよ。本当に幸せだよ。」 もう一度せつなの唇に私の唇を重ねる。 「ラブと出会えて良かった…。好きになって良かった…。」 また泣き始めたせつなをギュッと抱き締める。 「愛してる…、せつな。」私の初めての彼女はせつな。初めてのキスもせつな。 そして初めての相手も。 「ずっとこのままでいれたらいいのに。」 「それ、さっき私が言ったのよ。ふふ…」 さっきまで泣いていた私の彼女がもう笑った。反対に私が嬉しくて泣いちゃいそ うだったケドね。 ~END~
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/625.html
イエローハートの証明 ( 第4話:現れた男 ) 「あれぇ・・・ブッキーん家、留守かなぁ。」 ラブが首を傾げながら、電話を切る。その様子を見て、美希も怪訝そうな顔になった。 「リンクルンじゃなくて、家にかけたの?ラブ。」 「両方だよ。でも、ブッキーは出ないし、お家の電話は留守電になってる。」 「そう・・・。病院にでも行ってるのかしら。」 ぼそぼそと言い合う二人の親友の顔を、せつなも心配そうに見つめた。 三人は、四つ葉町公園のベンチに並んで腰掛けていた。ひとしきり再会を喜んだ後、まずは何をおいても祈里に連絡しなくてはと、ラブが電話をかけたのだ。 公園の若葉は、もう高いところまで上った日の光を受けて、キラキラと輝いている。今のラビリンスにはまだ無い、緑の美しい光景。もっとも今のせつなは、それに見とれている気分ではなかった。 ブッキーは・・・祈里は一体、どうしたのだろう。 だが、ラブの言葉を聞いて、ここへ帰って来た重要な目的を思い出し、せつなは背筋を伸ばした。 「誰も電話に出ないんじゃ、いきなり押しかけるわけにもいかないよね・・・。どうしよっか、せつな。」 「そうね。じゃあ、ブッキーには後で連絡するとして、まずはナケワメーケが現れた現場に連れて行ってもらってもいい?」 せつなの言葉に、ラブと美希の表情も引き締まる。 「わかった。こっちだよ!」 ラブが勢いよく立ち上がり、先に立って走り出す。せつなと美希も、すぐその後に続いた。 イエローハートの証明 ( 第4話:現れた男 ) 「ここだよ。この中で、ナケワメーケが暴れてたの。」 立ち止まったラブに続いて、せつなも囲いの破れ目から、その場所を覗き込む。 何かの建設予定地らしい空地。その隅には、これから組み立てられるのであろう機材が、整然と積み上がっている。しかし、一度きれいに均されたように見える地面には、何か重くて大きなものが落下したかのような凸凹が目立ち、あちらこちらで土がめくれ上がっている。 襲撃の跡が生々しい現場の片隅に、ぽつんと置かれている一台のショベルカー。それを見て、せつながわずかに顔を曇らせる。かつてショベルカーをナキサケーベにして、ラブたちを苦しめたときのことが頭をかすめた。 気を取り直して、ラブと美希に向き直る。 「それで、ナケワメーケの元になったものは、もうここには無いのね?」 「どうやら無いみたいね。このくらいの大きさの、紫色をしたガラスの瓶だったわ。香水を入れて使う物よ。」 美希が囲いの中に目を凝らしてから、親指と人差し指で香水瓶の大きさを示し、せつなのために簡単な説明を加えた。 「そう・・・。」 せつなが土埃の立つ空地を見つめながら、両手を合わせ、その人差し指を唇に当てる。何か考えを巡らせているときや、迷っているときの彼女の癖だ。そんなせつなを、ラブは真剣そのものといった顔つきで、美希は心配そうに眉根を寄せて、じっと見守る。 やがて意を決したように、せつなが顔を上げた。 「実は、二人に話しておかなきゃいけないことがあるの。本当は、ブッキーにも早く知らせなきゃいけないんだけど・・・。」 が、そう言いかけて、せつなはハッとしたように口をつぐんだ。不思議そうに首を傾げるラブと美希の後ろから、バラバラと複数の足音が近づいて来る。 揃いのグレーの制服を着た、十人ほどの大柄な男たち。その真ん中に立つ男が、いかめしい顔つきでじろりと三人を眺め、野太い声で言った。 「何だ?君たちは。ここは立ち入り禁止だよ。一体何をしてるんだ?」 「え、えーっと・・・それはですね・・・」 困った顔で言葉を探す美希。ところがその隣りから、ラブがパッと顔を輝かせて前に進み出た。 「おじさん!おじさんって、去年のトリニティのコンサートのときに、警備員だったおじさんだよね?」 「ん?君は・・・。」 怪訝そうな顔でラブを見つめてから、男がニヤリと笑う。 「思い出した!あの時のお嬢ちゃんか。確か、トリニティのボディガードだっけ?あれは傑作だったよなぁ。はっはっは・・・」 楽しそうに笑う男に、ラブも笑顔で頷く。美希は合点がいった顔で、やれやれ、とため息をつき、せつなはキョトンとして首を傾げた。 そう、あれは去年の七月の、トリニティのコンサートのとき。四人目のプリキュアと目されていたミユキがラビリンスに襲われたときのために、ラブたち三人がボディガードを買って出た。そこで、張り切り過ぎてスパイ顔負けの恰好をしていたラブを、不審者かと思って警備室に連行しそうになったのが、今目の前に居る彼だったのだ。 「それで、今日はどこで警備のお仕事なの?こんなに大勢で。」 「いや、実は昨日、そこの工事現場に化け物が出たって情報があってなぁ。ほら、あのコンサートを滅茶苦茶にしたヤツの、仲間みたいなヤツらしいんだが。」 せつなが辛そうに下を向いたのにも気付かず、男は至極軽い調子で話を続ける。 「あのときはプリキュアが助けてくれたけど、今はもう、この町にはプリキュアは居ないらしくてね。それで俺たちが呼ばれたのさ。」 「おじさんたちが?え・・・まさか、おじさんたちで倒すつもりなの?ナケ・・・ううん、あの化け物を!」 驚きと心配で、ラブが目を大きく見開いたとき。 「ちょっと待って下さい。困りますよ、町の人たちを不安がらせるようなことをおっしゃっては。」 大男たちの後ろから、新たな声が聞こえた。 「え?この声って・・・。」 美希が意外そうに呟くそばから、男たちが左右に分かれて、さっと道を開ける。 悠々とそこを歩いてきたのは、ひょろりとした長身に、黒縁の眼鏡をかけた色白の少年――。 「やあ、皆さん。あ、東さん!お久しぶりです。」 四つ葉中学校三年生、御子柴健人が、少し照れたような表情で、三人に向かってぴょこんと頭を下げた。 「健人君!どうしてここに?それに、このおじさんたちって・・・」 勢い込んで問いかけるラブを押しとどめて、健人が後ろに控えている男たちを下がらせる。そして、こちらの話し声が聞こえない距離まで彼らが離れたのを確認してから、もう一度三人の方に向き直った。 「皆さんも、あの化け物の話を聞いて、現場を見に来られたんですか。あれ?でも、今日は山吹さんはご一緒じゃないんですね。」 「ブッキーは、体調が悪いらしくって・・・。それよりさ、あのおじさんが言ってたことって本当なの?」 「ああ、あの方たちは、僕がお願いして来て頂いたんです。人々の安全を守るプロですし、武道の心得もある方たちですから。」 ラブの問いに、健人が事もなげに答える。 「じゃあ、やっぱりあのおじさんたちで、ナケワメーケを!?」 「無茶よっ!あの化け物は、普通の人間が太刀打ちできるような相手じゃないわ!」 色めき立つラブと美希。が、健人はそれにもまるで動じる風がない。 「お二人とも、落ち着いて下さい。まさかそんなこと、僕も考えてはいませんよ。 あの方たちの役目は、あの化け物の謎を解く手掛かりを探すこと。そして万が一、また化け物が現れたら、町の人たちを安全に避難させること。それだけです。」 「じゃあ、もしまた怪物が現れても、それを倒そうだなんて思ってはいないのね?」 今まで黙って三人のやり取りを聞いていたせつなが、静かに口を開く。健人は、三人の顔を順繰りに眺めてから、薄い胸を精一杯張って一言、こう答えた。 「いいえ。」 「ええ~っ!?」 「だからっ!さっきも言ったように・・・」 「桃園さん、蒼乃さん。御子柴グループを侮ってもらっては困ります。」 再び健人に詰め寄ろうとしたラブと美希は、珍しく自信たっぷりのその言葉に、思わず口を開けたままで健人の顔を見つめた。 「御子柴グループは、家電製品だけじゃない、実に様々なものを手掛けているんです。それは皆さんも、ご存知ですよね?」 「それは、怪物を倒せるような武器も手掛けているってこと?」 「いや、東さん、そんなことは・・・。でも、武器と名の付く物は無くても、科学の力であの化け物を退治する手段はあるはずです。今、うちの優秀な研究者たちが、検討を始めています。」 うっすらと笑みさえ浮かべながらそう言い切る健人に、せつなが厳しい目を向ける。 「もし、その怪物がナケワメーケだったとしたら・・・侮っているのはあなたの方よ。ナケワメーケは、ただ物理的に倒せばいいという相手じゃないの。危険過ぎるわ。」 「ならば、またプリキュアが戦ってくれるんですか?皆さんは、もうプリキュアにはなれないんですよね?」 健人の方も一歩も引かずに、そう言ってせつなを睨むように見つめる。もっとも、その眼光にあまり迫力は無かったが、せつなは一瞬、言葉に詰まった。それを見て、健人が勝ち誇ったように、さっきの薄ら笑いを浮かべる。 「だったら皆さんも、今はただの一般人です。ここは僕に任せて、もうこの場所には近付かないで下さい。」 「何言ってるのよ!」 美希が思わず苛立たしげに叫んだ、その時。 「ねぇ・・・どうしちゃったの?」 心配そうに震える声が、今にも衝突しそうな三人の間に割って入った。 ラブが、瞳をわななかせながら、健人に一歩近づく。 「今日の健人君、なんかヘンだよ。なんか・・・いつもと違って、凄く無理してるみたい。ねぇ、何があったの?」 「そ、それは・・・四つ葉町にまた怪物が現れた、非常事態だからですよ。」 今まで滑稽なくらいにぴんと伸ばしていた健人の背中から、その瞬間、ふっと力が抜けた。眼鏡の奥の小さな目が、落着きなく揺れる。 が、それも一瞬。 「ねぇ、大輔たちは?このこと、知ってるの?」 ラブのこの言葉に、健人は再び背筋を伸ばすと、ぐっと拳を握った。 「大輔君たちには、関係のないことです。」 「そんな、関係ないって・・・。」 ますます心配そうなラブの声に、耳を塞ぐようにかぶりを振ってから、健人は自分に言い聞かせるように呟く。 「僕は・・・御子柴グループの後継者です。大切なこの町の人たちは、僕が守ってみせます!」 「こんな風に一人で無理して、みんなを守ることなんて出来ないよっ!」 「皆さん!」 ラブの叫び声を無視して、健人が後ろに控えている男たちを振り返る。 「話は終わりました。調査の間、現場に一般の方が近付かないように、警備を厳重にして下さい。それから、ここに居る一般人の方々には、速やかにお帰り願って下さい。」 「健人君!」 「ちょっと!話はまだ終わってないわよ!」 「待って!話を聞いて。本当に危険なのよ!」 呼びかける三人に答えることなく背を向けると、健人は男たちの間の道を、今度は一目散に駆け去った。 追いかけようとするラブの肩を、さっきの警備員が素早く抑える。 「そういうことだ。御子柴の坊ちゃんの言う通り、ここは危ないから、早く帰りなさい。」 「おじさん、離して!健人君と話をしなきゃいけないんだから!」 「おお、分かった。じゃあ、もうここへは来ないと約束してくれるな?」 「それは・・・。」 ラブが困ったように俯いた、その途端。警備員が息を呑む気配がして、ラブの肩に置かれた手が離れた。 「おい。こいつに何をしているのだ?」 突然、すぐ隣りから聞こえてきた声に、今度はラブが驚いて顔を上げる。 いつの間に現れたのか、一人の男がラブの隣りに立ち、腕組みをして警備員たちを見回している。 くたびれたアイスブルーのジーンズに、黒い長袖シャツ。鮮やかなオレンジ色のダウンベストに、さらに明るい黄金色の髪――。 「ウエスタ・・・あ、あわわ、は、隼人さん!」 「よぉ。」 ラブの頭を、ぽん、と軽く叩いてニヤリと笑ってみせたのは、西隼人――元・ラビリンス幹部ウエスターの、この世界での姿だった。 「何だ、君は。」 さっきの警備員が、警戒心も露わに問いかける。 「こいつらの知り合いの者だ。警察・・・ではなさそうだが、こいつらが何かしたのか?」 「いや。お嬢ちゃんたちが危険な現場を覗いていたんで、注意しただけだ。」 「ああそうか。すまん。こいつらはどうも、危険を顧みないタチでな。俺からも、よく注意しておこう。」 「ちょっと!何言ってるのよ!」 せつなが小声で文句を言うのもどこ吹く風で、人懐っこい笑顔になった隼人に、警備員が警戒を解く。が、彼がくるりと踵を返し、当の現場に向かってスタスタと歩き始めたのを見て、慌てて声をかけた。 「おい、どこへ行く。」 「なるほど、現場っていうのはここか。ちょっと邪魔するぞ。」 「あ、こら待て。おい!」 隼人は大きな身体を器用に折り曲げて、囲いの破れ目から空地の中へと入っていく。そんな彼を、一度は猛然と追いかけようとした警備員が、急に足を止めた。 優秀な警備員で、武道においても相当な実力者。そんな彼だからこそ、隼人が空地に入った途端、その大きな背中がさらに大きくなったように見えたのだ。 鍛え上げられた筋肉をまとった長身から、殺気にも似た強烈な気が立ち上る。警備員はただ圧倒されて、必死で身構えながら、その背中を睨み付けることしか出来なかった。そんな彼の目の前で、隼人は空地の真ん中に立ち、しばらく辺りを見回した後に、またさっきの破れ目からひょいと通りに戻って来た。 「ここにはもう、何も残ってはいないようだ。邪魔したな。」 穏やかな声で警備員にそう言うと、隼人はラブたち三人に目配せして、先に立って歩き出した。 「あ、ちょっと・・・おじさん、さよなら!」 ラブが慌てて後を追い、美希とせつなもそれに続く。 やがて、警備員たちからその姿が見えなくなってから、隼人はくるりと振り返ると、いつもの能天気そのものの笑顔で、実に嬉しそうに言った。 「久しぶりだなぁ。キュアピーチ、キュアベリー、イース!」 「もうっ!その名前で呼ばないでよ!!!」 少女たちに声を揃えて非難され、彼は冷や汗を浮かべながら、あはは・・・と力なく頭を掻いた。 ☆ 「それで、念のために聞くけど、あれはあなたが生み出したものでは無いのね?」 鋭い眼差しを向けるせつなに、隼人が大いに不満そうな顔をする。 「俺のわけないだろう!大体、このところ地方を駆けずり回っていて、お前やサウラーにすら滅多に会わないじゃないか。こっちに来るヒマなど、あるものか。」 そう言ってドーナツを口に放り込んだ途端、隼人の厳めしい顔が、みるみる幸せそうに緩む。その様子を苦笑気味に眺めながら、どうやら嘘をついてはいないようだと、せつなは内心ホッとした。 ここは、カオルちゃんのドーナツ・カフェ。テーブルの上に置かれている山盛りドーナツは、既に二皿目だ。 そして今日のドーナツは、久しぶりに店にやって来た「クローバーの四人目のお嬢ちゃん」と「ラビリンスの兄弟」への、カオルちゃんの歓迎の気持ちだった。 「だとすると、あの黄色いダイヤは一体何なのかな。ねぇ隼人さん、何か心当たりは無いの?」 「サウラーにもそう言われて、ずっと考えているんだが・・・。残念ながら、何も思い浮かばないな。」 ラブの問いに、緩んでいた隼人の顔が、さすがに引き締まる。 「そっか・・・。まさか、誰かにダイヤを渡した、なんてこともないわよね?」 「渡したって、この世界の人間にか?何のために?俺が言うのもなんだが、そんなの危険過ぎるだろう。」 「え?どういうこと?」 美希の問いに事もなげに答えた隼人に、ラブと美希が不思議そうに問いかける。それを聞いて、隼人は驚いた顔をせつなに向けた。 せつなは、そちらをちらりと眺めてから、二人の親友を正面から見つめる。 「さっき話そうとしたのは、そのことなの。ナケワメーケを生み出す、ダイヤの力のことよ。」 せつなはそう言って少し考えてから、よどみのない口調で話し始めた。 「あのダイヤは、素材の持つ力を増幅させてナケワメーケを作り出すことで、不幸のエネルギーを集めるためのもの。そして実はダイヤ自身も、周囲に災いをまき散らして、不幸にする力を持っているの。」 「え・・・ナケワメーケに、ならなくても?」 「ええ。威力は小さいけれど、近くにいると不幸に見舞われるおそれがあるって聞いたわ。だから、使うときには直前に召喚するようにって言われていたの。まあもう一つの理由は、そんな危険なダイヤを持っているときに攻撃されるのが、一番危ないからだけどね。」 テーブルに目を落として、静かに語るせつなの言葉に、ラブと美希が真剣な表情で聞き入る。 「確かに危険ね。そういうことなら、隼人さんが言うことも分かるわ。」 美希がそう言うと、ポカンとしてせつなの顔を見ていた隼人が、夢から覚めたように頷いた。 「あ・・・ああ。それに、この町の人間たちの手に渡ったら、俺たちが扱うよりもっと危険だ。 あの頃、俺たちは不幸を集めていた癖に、不幸がどんなものだかよく知らなかった。そんな怖いもの知らずの人間より、幸せや不幸をよく知っているこの町の人たちの方が、より大きな不幸に見舞われてしまうかもしれないからな。」 隼人は淡々とそう言ってから、もう一度せつなの顔をじっと見つめた。 「それよりイース。お前・・・そのこと、ラブたちに話していなかったんだな。」 低い声で唸るように呟く隼人に、せつなは何も答えず、黙ってテーブルの上のオレンジジュースに手を伸ばす。 きっと、あまりの手ぬるさに呆れているんだろうな、とせつなは思った。この情報は、言わばナケワメーケで戦う場合の、ラビリンスの弱みとも言える情報だ。隼人は――いや、ウエスターはおそらく、プリキュアが当然この情報を知っているものだと思っていたのだろう。 ウエスターもサウラーも、イースがプリキュアになったとき、ラビリンスの手の内は全てプリキュアの手に渡ったと思ったはずだ。だが実際は、ラブも美希も祈里も、ラビリンスのことを何一つ、せつなに聞いてはこなかった。 理由は簡単。イースだった頃の行いを悔い、悩んでいるせつなに、これ以上辛い思いをさせたくはなかったからだ。 ラビリンスと戦う戦士としては、あまりにも甘い考えだったと思う。だが、三人の優しさに甘え、不幸のゲージの存在すら、ゲージが満タンになる寸前にしか明かせなかった自分が一番甘かったと、今振り返って、せつなはそう思う。 隼人は、それについてはもう何も言わず、黙って次のドーナツを口に運んだ。 「う~ん、それならあのナケワメーケって、一体何なんだろう・・・。」 ラブが、とてもこの世界を救った戦士とは思えないような、テーブルの上に顎をのせた行儀の悪い姿勢で、ぶぅっと頬を膨らませる。 「とにかく、早く真相を突き止める必要があるわよね。ダイヤがあれ一つだけじゃなくて、もしまだこの町に別のダイヤがあったりしたら・・・。」 「ええ。もしそうなら、あの警備員さんたちが見つける前に何とかしないと、厄介なことになるかもしれないわ。」 「そっか、そうだよね。今日の健人君の様子も気になるし・・・。この事件が解決したら、きっとゆっくり話も聞かせてもらえるよね。」 三人の少女の会話に、隼人も空になった皿を片付けながら加わる。 「明日、俺も町中をくまなく探してみることにしよう。もしもまだダイヤがあれば、俺ならば気配を感じ取れるはずだからな。」 隼人の話では、あの空地にはもうダイヤの気配は残っていなかったらしい。それどころか、この町に来てから、隼人はまだ何の気配も感じていないという。サウラーがこの町に何らかの反応を認めているというのに、それが少々、気味の悪い話でもあった。 四人は、それからしばらく明日の作戦会議を行ったものの、結局、町の人たちから情報を集めながら、丹念に手掛かりを探す、という以外の妙案は浮かばなかった。 事件の真相は、まだまだ深い闇の中にあって、光は見えない。そういうときは、今自分たちに出来ることをやるしかないだろう。 ドーナツ・ワゴンの中で、カオルちゃんが鼻歌を歌いながら、三皿目のドーナツを積み上げている。ワゴンの窓の向こうには、春には珍しいほどの美しい夕焼けが空一面に広がって、四人の横顔を照らしていた。 ~第4話・終~ 小さな手がかり(前編)へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/623.html
今日は二月三日、立春の前日、節分の日。 新たな年を迎えるにあたり、邪気、魔物を払ってしまおうという伝統行事だ。 鬼は外 福は内♪ 弱虫鬼さん あっちいけ 怒り鬼さん あっちいけ 投げた大豆が おめめに当る 鬼は あわてて 逃げてゆく♪ 「楽しそうな歌ね、ラブ。節分の歌なの?」 今日はとっても楽しい日なんだよ~って朝から張り切ってる。 ラブの笑顔と可愛い歌声を聴いていると、せつなも自然と顔がほころんでくる。 「うん! 小さい頃、よくおかあさんが歌ってくれたんだ」 厚紙、クレヨン、はさみ、輪ゴム。 「こういうのってさ、自分で作るのが楽しいんだよね」 なあに? とせつなが覗き込んだ。 ふうん、豆まきに使うのね。 「さあ、せつなっ。鬼の面作るよ」 「でも、鬼の顔なんてわからないわ」 学校の図書館で見たような。 懸命に思い出そうとしてるせつなにラブが笑いかける。 「恐そうな顔に角つけたらそれでいいよ。怒った美希たんとか」 「ぶっ、聞いたら怒るわよ、ラブ」 思わずせつなが吹き出した。 あんな綺麗で優しい鬼ならずっと内に居て欲しいと思う。 もしかしたら鬼も本当は優しいのかもしれない。 そんな風に思いながらクレヨンを滑らせた。 「あ~せつなの鬼かわいい、全然恐くないよ?」 「なによ、ラブの鬼こそ福笑いみたいで笑わせるつもり~?」 少しむっとしてせつなは言い返す。 もちろん本気で怒ってるわけじゃない。 ラブの鬼もアンバランスだけど愛嬌があってとても可愛かった。 可愛いってのが鬼の面として正しいのかどうかはわからないけど……。 「ただいま~」 圭太郎が仕事から帰ってきた。 いつもよりだいぶ早い。 二人が楽しみにしてるのを知っているからだろう。 「おかえり~、おとうさんっ!」 「おかえりなさい、おとうさん」 パタパタ、コロコロと玄関に飛び出していくラブとせつな。 早く!早く!って圭太郎の手をそれぞれ引っ張って居間に連行した。 「待った待った! せめて着替えはさせてくれないかい」 苦情を言う圭太郎。でも表情はとても嬉しそうで。 あゆみは手際よく着替えを持ってきて、背広を脱がせていた。 「じゃあ、そろそろ豆まきしようよっ」 「よし、僕が鬼になろう」 圭太郎が意味も無く腕をまくって張り切った。 「よ~しって、あれ? せつな。どうかした?」 せつなが四角い升と福豆を持ったまま、困った顔をしている。 「おとうさんに豆をぶつけて追い出すんでしょ、できないわ」 豆まきのやり方を聞いていなかったわけではない。 でも、いざ、おとうさんを相手に豆を持つと、投げつける気にならなかった。 「いや、今はおとうさんじゃなくて鬼だし」 「それでも、嫌……」 そっぽを向いてしまうせつな。 「う~ん、じゃああたしが鬼になるよ」 「ラブでもおかあさんでも嫌よ」 こうなってしまったせつなは頑固だ。 美希が言うに意地っぱり。 説得は容易なものではない。 「でもそれじゃ豆まきできないし、せっかく準備したし……」 「じゃあ、私が鬼になるわ」 真面目な顔で申し出るせつな。困らせているのはわかっていた。 「え~、それこそ出来ないよ。困ったな」 「こうするのはどうかしら、全員鬼になって投げあうの。 豆まきには厄を追い出すって意味があるから、お互いの厄を祓いあいましょう」 見かねてあゆみが助け舟を出した。 笑っているところを見ると、珍しいせつなのわがままを、 楽しんでいたのかもしれない。 「それなら私もやりたい」 「さっすがおかあさん」 ラブとせつなは自作のお面。 圭太郎とあゆみは福豆のおまけのお面をそれぞれ被る。 「鬼は外~、福は内~」 しばらく、楽しそうな声が部屋中にこだました。 「撒いた豆は年の数だけ食べると、邪気を祓って病気にならないそうよ」 これ、歳を感じるから嫌なんだよな~と圭太郎がぼやいた。 あなたはまだまだ若いわよって、あゆみが微笑む。 残りは庭に撒いた。鳥が邪気を遠くに運んでくれると言われてるらしい。 「でも、さっきからおとうさん写真ばっかり」 「いいじゃないか、娘を持つと撮りたくなるもんだ」 豆をまく姿。 ひろって食べてる様子。 自作の可愛いお面をずらして見せた笑顔。 「節分なんて記念写真撮るものじゃないわよね、お父さんたらっ」 そう言うあゆみも嬉しそうだ。 せつなにはまだ完成したアルバムが一冊も無い。 せめて、これからの成長の記録をたくさん残してあげたい。 あゆみと二人でそう決めていた。 「なんだか、恥ずかしいわ」 パシャ! そんな照れた笑顔も記念の一枚になった。 「いいのいいの、おとうさん、おかあさんは座ってて」 ラブとせつなは夕飯の支度。 二人とも料理は大の得意だ。 「いわしが焼けたよっ、一番大きいのはおとうさん」 手際よく配膳していくラブ。 こんな時はとても器用だ。 「この茶碗蒸し、私が作ってみたの。上手く出来てるといいんだけど」 せつなが嬉しそうに並べていく。 「恵方巻きは二人で作ったんだよね~せつな」 「へ~立派なものじゃないか、凄いぞ、ラブ、せっちゃん」 「崩れず綺麗に巻けてるわね、さすが、二人ともわたしの娘ね」 同時に顔を見合わせてハイタッチ。双子のように息がぴったりだ。 「せっちゃん恵方巻きの意味は知ってるかしら?」 恵方巻きは七種類の具材を入れて七福神にちなんで、福を巻き込むという意味なんだそうだ。 目を閉じて願い事を思い浮かべながら、恵方に向かって無言で一本丸かぶりするらしい。 途中で切ると、縁を切るって意味になって縁起が悪いんだとか。 「わ……私、精一杯頑張るわ!」 せつなが青い顔をして言う。 みんなで大笑いした。 「今年の恵方は西南西よ、じゃあ頂きましょう」 「いただきま~す」 「……………………………………」 「……………………………………」 「……………………………………」 「むぐっぐっ………………………」 頬をいっぱいに膨らまして食べるラブ。 図鑑で見たリスみたいで思わず吹き出しそうになる。 せつなは思う。少し前まで笑うのが苦手だった。 いつのまにか笑いを堪えるのが当たり前になっていた。 「ねえねえ、せつなはどんなお願い事をしたの?」 鰯の頭をヒイラギに刺しながらラブが聞く。 「ラブはどうなの?」 「あたしは~ダンス上手になりますように。 成績上がりますように。 みんな健康で幸せゲットできますように。 それからそれから……あれ?」 指を折って数えながら、途中で首をかしげるラブ。 多分、お願いしすぎて全部覚えてないんだろう。 「そんなにいっぱい叶えてくれるものなの? 恵方巻きって」 また、せつなが吹き出しそうになりながら口を押さえた。 「ほんとしょうがない子ね~」 「まあ、ラブらしくて良いんじゃないかな」 圭太郎とあゆみも笑ってる。 「だって……。せつなはどうしたの?」 「私は、来年のこの日も、家族みんなで恵方巻きを食べられますようにって」 「それだけっ?」 「そうよ?」 「そんなのでいいの?」 欲が無い。信じられないって顔でラブがまじまじと見つめた。 せつなが微笑む。 「来年のこの日も同じことお願いするの。その次の年も。 そしたらずっと、ずっと、おとうさんやおかあさんやラブと一緒に居られるでしょ」 両手を胸の中央にあてて、祈るように、歌うようにせつなが話す。 嬉しそうで、幸せそうで、明るく優しい笑顔。 もう寂しげな影はどこにもない。 「せつな……」 ラブが愛しそうな目で見つめる。 もっと、もっと楽しいこといっぱいあるよ。 だから、もっともっと笑って幸せになって欲しい。 色んな感慨がこみ上げてくる。しかし、泣き声で邪魔された。 「やだ、お父さん、どうして泣いてるの」あゆみが駆け寄る。 「せっちゃん、ラブ、ずっと家に居ていいんだぞ。どこにも行く必要は無いんだ」 滅多に飲まないお酒、「鬼ころし」がまわってきたのかもしれない。 圭太郎が勘違い? して泣き出した。 「ちょっと、やだ、何言ってるの? せっちゃんはそんな話してないでしょ」 「だって、ぐすっ」 あゆみが優しく背中を撫でた。 「ほんとしょうがないわね、男の人って」 せつなとラブは顔を見合わせてまた笑った。 「よ~し、せつなっ。来年の節分までにも、いっぱい幸せゲットしようね」 「ええ、精一杯頑張るわ」 鬼は外 福は内♪ 福の神様 こっちきて 宝の船で こっちきて 逃げた鬼と 入れかえに 内に お入り 七福の神♪ 歌えよ歌え、幸せの歌。桃園家に響き渡れ。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/883.html
壊したい世界/そらまめ 「ん、あれ…」 ひどい頭痛で目が覚めた。枕もとの時計を見ればもう正午を回っている。 「やあっと起きたんかい」 「たる、と…なんか、頭いたい…」 「そりゃ寝過ぎや。ママさんも出掛けて誰もいない日やからって限度っちゅうもんが…」 「あー、はいはい、すみませんでしたー」 これ以上タルトに話をさせるとクドクドと説教臭くなるので軽く受け流し、汗で張り付いたパジャマの胸元をぱたぱたと手であおった。 もう夏も終わるというのに今日は蒸し暑いな。なんて思いながら外を見れば、外ではミンミンと元気に蝉が鳴いている。 「あ、れ…?」 「ん? どないしたん?」 「た、タルト…なんか今日、やけに太陽が輝いてるっていうか眩しいっていうか、蝉がなんでまだ鳴いてるのっていうか…」 「…なんやまだ寝ぼけてるんかいな…お天とさんが眩しいのは当たり前や。蝉が鳴いてるんは夏のひと時を一生懸命生きとるっちゅう証拠で…」 「ま、待って…夏? え? 今って9月だよね? さすがにもう夏じゃなくて秋なんじゃ」 「…壁のカレンダーよう見てみい」 「カレンダー…え…?」 タルトが呆れながら指さす方を見る。壁のカレンダーは、8月のページ、赤のバッテンは1日に印がついていた。 今は、夏休みだった。 頭が追い付かないまま階段を降り、冷蔵庫のドアを開ける。ひんやりとした冷気が肌に当たるのを感じながら、麦茶を取り出し一気に飲んだ。 朝食兼昼食を食べ、部屋へ戻ると窓を開けた。夏独特のぬるい風が体にまとわりつく。確かにこの蒸し暑さは夏だ。茂る緑の木々も近所のひまわりもそれを物語っていた。それでもなにかしっくりこなくて首をかしげていると、視界の端でリンクルンがピカピカと点滅している。着信履歴には美希の文字が。ボタンを押してかけなおしてみる。 「アンタねえ…どれだけアタシ達を炎天下にさらす気よっ!」 いきなり怒られた。 「え、なんか今日、約束してたっけ…?」 「ああん?」 「ひぃっ」 美希のあまりにもドスの効いた声に思わず怯えた声がでた。これは怒っている。長年の経験からみてもかなりヤバい状態だ。 がくがくと体が小刻みに震え、暑いはずの空気が一瞬で冷や汗と共に流れていく。 「今、どこ」 電話口から聞こえる淡々とした声。 「じ、自分の部屋に、います…」 「いつもの公園、今、すぐ」 「は、はいっ!!」 ぷつりと通話が切れる音に弾かれるようにドタドタと体が動き出した。 「あら、意外と早かったわね。こんなに早く来れたのになんで時間通りには来てくれないのかしら」 「ぜーぜーっ…す、すみません、でしたっ」 ミンミンとけたたましい音が鳴り響く公園の一角、パラソルの下には椅子に座ってジュースを飲みながら冷やかな目でこちらを見る美希と、苦笑いしながらハンカチを手渡す祈里がいた。 「肌焼けてたらラブのせいだからね」 「もう、美希ちゃん。美希ちゃんなら日焼け止めくらい塗ってるでしょ?」 「ブッキーだって怒っていいのよ? こんな暑い中待たされたんだから。しかも電話するまで集まる事忘れてたって言われたら、ねえ?」 「すみません…」 祈里から貸りたハンカチで汗を拭きながら頭を下げる。なんだかこの構図はサラリーマンが上司に謝り倒しているみたいで嫌だな。なんて思いながら、二人と同じようにテーブルに座った。 「で、こんな日にこんなところに集まったわけだけど…」 こほんと一つせきをして話し始める美希だが、このメンバーに物足りなさを感じる。 「ねえ、せつなは? もしかして遅れてくるの?」 そう。せつなはどこだろう。思えば自分の家を出る時確認すればよかったのだが、慌てていたのでそこまで気が回らなかった。 と、せつなの名前を出した途端、ふたりの顔が強張った気がした。 ぎしり。という音が合うような、一瞬にして空気が凍ったような。 「ラブ、ラブの言いたいことはわかるわ」 美希の声がさっきまでとは別物で、硬さを持っている。 「でも、ラブも見たはずよ。あのカード。あれはラビリンスのもの。せつなは、アタシ達の敵なの」 ゆっくりと、言葉を選ぶように、でも事実を突きつけるように告げられた言葉はいつかのデジャヴを感じる。祈里はこちらを気遣うような、心配そうな顔をしている。 「トリニティのライヴ会場にせつながいたのは、きっとあのライヴを攻撃するためだったのよ? せつなが倒れてなかったら、一般のお客さんも巻き込まれて被害は大きかったと思う。そんな事をしようとしてた人、許していいわけないわ。近いうちせつなはきっとまた来る。あの最後のカードを使うために。その時アタシ達がしなきゃいけない事は…」 「ちょ、ちょっと待って美希たん、せつながラビリンスだったって事は今更な話じゃん」 美希が長々と話す内容は、みんな知っている事のはずだ。トリニティのライヴを中断させて、せつなが自らイースだったと正体を明かして、そしてペンダントを壊して去って行ったあの光景は忘れられるようなものじゃない。 「ラブちゃん…もしかして前からせつなちゃんがあのイースだったって知ってたの…?」 「え? 何言ってるのブッキー、ブッキーだって知ってるでしょ?」 「えっ…! わたしはあのライブでカードを見たって二人の話を聞いて知ったんだよ?」 「ん? だからライヴ会場でイースがいつもとはちょっと違うナケワメーケをだして…」 「ラブ。なに勘違いしてるのか知らないけど、この間のトリニティのライヴは何事もなく無事に終わったわよ。忘れたの?」 「は…?」 何かがかみ合わない。意味がわからない。 二人の中ではせつなはまだイースで、でもイースはライヴ会場では何もしてなくて… 腕組をしながら頭を捻る。頭をフル回転させてもこういった考え事は性に合わないから、すぐに頭がくらくらしだした。この場の暑さも相まってふつふつと沸騰しそうになった時、部屋で見たカレンダーを思い出す。 「ねえ、美希たん…今日って、何日だっけ?」 「…8月2日よ。急にどうしたのよ?」 「そっか…今、夏休みだから…」 何がどうしてだかわからないけど、今日がまだ夏休み初日で、せつながパッションになる前だから二人の中では敵って事なのか。 …なにそれ意味わかんない。 タイムスリップでもしたのあたし? それともこれは夢? でも、頭に思い浮かぶ光景がある。この青空とは似ても似つかない黒々とした雲が覆った雨の日。パッションが、せつながあたしを庇って倒れた時の事だ。 思えばあそこから先の記憶がない。むしろあっちが夢だったのだろうか。ただ、この手にはまだパッションを抱きしめた感覚が残っている。 もしかして間に合うのかもしれない。どちらが夢にしろ、血の気のないせつなの顔は、傷だらけの姿はもう見たくない。自分の記憶とは少し違うけど、今、せつなは生きている。まだラビリンスにいるけれど、それでも彼女がまた笑いかけてくれるなら。 あたしは、今度はあたしがせつなを助けるんだ。 「ラブ、辛いかもしれないけど…」 「うん。わかった。せつなに会いに行こう」 「いいの? ラブちゃん」 「うん。いい」 「そう。よかったわラブがそう言ってくれて」 絶対助ける。何があっても 「まさかそちらから来るとは、手間が省けた」 「せつな…」 ラビリンスと言えばやはりあの館。敵地に飛び込む形にはなるが街の人に危険が及ばないためにも、あの森で決着をと決めて歩いていると、たどり着く途中でせつなと鉢合わせる。この場所は、雨の日にせつなと一対一で戦った場所だった。 「もうわかっているとは思うけど、私はお前たちの敵だ。もちろん、止まる気もない」 「やっぱり…」 美希の苦しそうな呟きを横目で見ながら、せつなの敵意の籠った視線を感じる。以前はそれ以上を感じ取れなかったが、今は他の事にも気を掛けられるようになった。例えば、敵意の他に焦りが見える事。全身ぼろぼろで既に満身創痍な事。カードを使えばライブ会場の時のように制御が効かなくなりそうな事。どれをとっても、せつなはもういっぱいいっぱいだ。 「ねえせつな。せつなが今、譲れないくらい強い想いを持ってるのは解るよ。そのためならどんな手段も使いそうだってことも」 「…そうだな」 「でもね、あたしもせつなに負けないくらい押し通したい想いがあるの。せつなと仲良くなって、せつなと一緒にたくさん楽しい思い出を増やしたいんだ。大丈夫。こっちの世界に居場所が無いと思うならうちに来て一緒に住もうよ。ラビリンスが全てじゃないよ」 「私が、一緒に? ラブと? …っは、馬鹿を言うな。どうしたら敵と一緒に暮らせると言うんだ」 「せつなは敵じゃないよ! あたしの大切な友達だよ!!」 「だから…お前のそういうところがムカつくんだっ!!」 「待ってせつなっ! それを使っちゃダメっ!!」 せつなが掲げたカードに手を伸ばす。今それを使えばせつながどうなってしまうかわからない。 だが、駆け出し伸ばした手は宙を掴む。せつながイースへと変わり、あろうことか自身にそのカードを押し当てた。 「ぐっぁああああっ!!」 「せつなぁあああ!」 胸を抑え苦しむ姿が、いつかと重なる。ただでさえ黒い衣装は更に黒くなり、全身には茨の代わりに鎖がぎちぎちと音を立ててイースの体に食い込んでいく。 「はぁっ…ぐっ! こ、この力で、貴様らを……倒すっ!!」 息も絶え絶えになりながら、鎖を拳に巻き付け殴りかかってくる。 「くっ! せ、せつなっ、それ以上その力を使っちゃダメだよっ」 「うるさいっ!!」 プリキュアに変身してその攻撃を受け止める。その後方では美希と祈里が心配そうにしているが、予め一対一で戦いたいとお願いしたので手をだしてはこないだろう。 だが、本当ならこうなる前に止めたかった。もう一度せつなと殴り合うなんて嫌なのに、あの時と同じように時間は進んでいく。一つ違うとすれば、憎らしいくらい晴れ渡った空がこちらを照らしている事だろうか。 「ねえ待ってよせつなっ、あたしせつなと戦いたくないよ」 「そんなの知ったことかっ! 私は貴様を倒したい、プリキュアを倒す! そのためならっぐぁあっ!」 「せつな!!」 まだこちらから攻撃なんてしていない。それなのに消耗していくイースの体。鎖が締め付ける度に吐き出される音は苦痛以外聞こえない。 同じだ。暴走しているんだ。鎖はきっとその体を引きちぎってしまう。 じゃらじゃらと音を立てながらどこまでも伸びていく鎖は、まるでそれ自体意思があるように動いている。イースに向かって拳を向ければ、周囲を取り囲む鎖が壁のように連なって盾となり、伸びる鎖に足を取られればその隙をついてイースが手套を振り下ろす。 「はあ、はぁ…せつ、な…だめなんだよ…このままじゃせつな、しんじゃうよ…」 「死ぬ…? ははっはぁ…何を今更、そんなことに…怯えなければならないんだ。貴様らを倒せないなら…この命、どうなろうと…」 「…いやだっ!! せつなが死んじゃうなんて、いやだよっ…う、ぁうっうあああっ…」 耐え切れずに涙が出た。どうしてこんなに泣いているのか自分でもよくわからない。でも、せつなが死んでしまう光景を想像すると、胸が張り裂けそうなくらい悲しくて、もうどうしようもないくらい大声で泣きわめいた。 「ちょ、ちょっとピーチ、どうしたのよ?」 「ピーチ…?」 駆け寄ってきた美希と祈里に尋ねられても、どうしてここまで苦しいのかわからなくて、痛みに耐えながらも理解できないと困惑するイースにも何も言えなくて、ただ、ゆっくりと雲が流れる静けさに、自分の声だけが反響し続けていた。 「何故、そこまで私に構うんだ。私はお前達を騙していたのに」 「だ、だって…だってせつなは、ぐすっ、あたしの大切な友達だから。せつながどう思ってても、あたしの気持ちは変わんないよ」 友達で、大切な家族だから。これから一緒に暮らして、学校に通って、修学旅行だって行かなくちゃなんだから。こんなところで、終わらせたくない。 「わからない…私にはそんなのっ、ぁああっ、ぐぅあっ! ぁあああ――――」 頭を抱えて苦しみだすイースが、先ほどまでとは明らかに違う叫び方をする。その叫びに呼応するように鎖が暴れだし、周囲の木々がその鋭利な衝撃で切り倒された。 「せつなっ!!」 「今イースに近づくのは危ないわっ!」 「ピーチっだめっ!!」 イースのそばに行こうと走り出す瞬間、その体は制止させられる。二人がかりで抑え込まれて動かない体を、それでも近づきたくて必死に手を伸ばしても、届かない。自分の声も今のせつなには。 イースの周りではバキバキと木々が壊れる音が響き、地面は所々抉られ土煙が上がる。 縦横無尽に動く鎖はその制御を失って、それでも暴れることを止めないそれをどうにかできないかと目で追いかけ続ける。と、そのうちの一本が大木を切り裂き、別の所でなぎ倒され地面に落ちていく巨木に当たって軌道を変える。その先は、今も苦しむイース。 「ま、待って…」 いやにスローモーションで、時間がゆっくりと流れている気がした。イースは気付かない。自分以外誰も。気付いたら二人の制止を振り切ってイースのもとへ駆け出していた。土煙で視界が悪いせいで間に合うかわからない。次々倒れる木の音も何もかもが遠くなって、美希と祈里が何か叫んでいる気がするけどわからない。 それでも走る。嫌だ。このままではまたせつなが目の前から消えてしまう。 思い出す。雨で視界の悪い中突然パッションが目の前に現れ、こちらを向いてにこりと笑うその腹部には木の根のようなものが背中から刺さった姿を。 「嫌だ、そんなの嫌だぁあっ!!」 重なる光景に更に勢いをつけてなりふり構わずイースに覆いかぶさる。その体は、温かい。生きている。そう思ったら嬉しくて涙が出て、温もりを感じた一瞬後に衝撃が体中に伝わっても、間に合ったことが嬉しくて思ったほど悲しくはなかった。 「ど、して…」 「よかっ、た…せつな、ぶじだぁ。よかった、ぁ…」 カタカタと震えるイースの手は、背中に回される。そうやって支えられてももう自分では立っていられなくて、ズルズルと体から力が抜けた。 「ラブっ!!!」 「ラブちゃぁんっっ!!」 真っ青な顔で駆け寄ってくる美希と祈里のふたりを視界の端に捉えてから、ふっと上を向けば、いつの間にか鎖が消え、それでもその跡が体中に残っているイースが、驚いたままの顔でこちらをのぞき込む。 傷だらけの体だけど、それでもせつなが無事でよかった。今度は自分が守れたんだと思ったら嬉しくてしょうがなくて、思わず笑ってしまう。 「なぜ、笑うんだ…」 ぽたりと落ちた水滴に、雨でも降りだしたのかと空を見る。せつなの顔越しに青空が広がっていて、それでも落ち続ける雫は、とても温かい。 「せつな、あお、ぞら…しょってるみたい、で…うれしい、から…」 手を伸ばしてせつなの頬をひとつ撫でてから、その先の空に向かって手を伸ばした。 今日も、快晴だ。 全757へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/53.html
圭太郎「せつなちゃんはデートとかした事あるのかい?」 せつな「でぇと?」 あゆみ「好きな人と一緒に映画館や遊園地、公園や海へ行ったりね。」 せつな「あっ♪あります。昨日もおとついもその前の日も。」 あゆみ「えぇ~っ!?いつの間にそんな、、、」 啓太郎「じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃあその何だ!?キ、、、キ・・・」 あゆみ「お父さんっ!!!」 ポカッ せつな「うふふ。キスですよね?それは教えてもらいました♪ 毎日してます。」 父母「な、、、、、、、、、、(汗」 ラブ「たっだいまぁ~!ふえぇぇぇ~、あつぃ汗止まんないぃ~」 せつな「あ♪お帰りラブ。今日もでぇとするの???」 啓太郎「ラブが相手なのかっ!?」 あゆみ「ラブが恋人なの~!?」 ラブ「何でそれをっ!!!!!!!!」 せつな「言っちゃダメだったの?」 ラブ「出来れば内密に。。。せつなぁ~(涙目」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/272.html
(もう、そろそろ出なきゃ……。) 祈里はチラリと時計に目をやる。さっきから何回こんな事を繰り返してるだろう。 意味もなくバッグの中身を入れ換え、リンクルンをいじくる。 (本当にもう、行かなきゃ……。) 今日は久しぶりのダンスレッスン。 忙しいミユキさんは来られないけど、四人揃っての自主練はずっと続けてきた。 最近は色々あってずっとご無沙汰だったけど、今日の練習は前々から決まってた。 仮病を使って休もうか、とも何度も思った。 けど、せつなも来るかも知れない。 それとも、あんな事があったんだから、祈里のいる場には現れないだろうか。 祈里も、実際に顔を合わせてもどうしたらいいかなんて分からない。 ラブにも、どんな目で見られるか。 せつなは恐らくすべて話したんだろう。 ひょっとしたら、美希にも話は行ってるかも。 三人の自分を見る目を想像する。 自分のした事を棚に上げて、足がすくみそうになる。 それでも、またせつなの顔が見られる。声が聞けるかも知れない。 どんな冷たい視線でも、罵る言葉でもいい。 せつなに会いたい……その欲求には勝てなかった。 狂おしいほど、せつなに会いたい。 いつもの公園に少し時間より遅れて着いた。来ているのは、美希だけ。 他の二人の姿は見えない。 そう言えば、美希とも随分会っていなかった。 おはよう、そう声を掛ける前に美希が祈里に気が付いた。 「ラブとせつなは来ないわよ。」 挨拶もなしにいきなり美希が切り出す。 「せつな、この間熱出して倒れたの。もう微熱みたいだけど、 まだ家からは出してもらえないみたい。」 ラブはせつなについていたいから、と美希に連絡があったらしい。 硬い声と表情から、美希も知ってるんだ。と理解する。 不思議なほど、動揺してない自分に祈里は少し驚いていた。 自分にはメールも電話も、何の連絡もなかった。当たり前だろうけど。 「ふうん、そうなんだ。」 まるで他人事のような口調。美希が微かに整った眉をしかめる。 (誰のせいよ?) その目がそう言ってる。 美希はどこまで知ってるんだろう。誰から聞いたんだろう。 ラブか、せつなか。たぶんラブだろう。 だとしたら、せつなはラブに全部話したんだろうか。 「ねぇ、どう言う事なの?なんで、こんな事になったの?」 「……いったい何の事…?」 「はぐらかさないでよ、ブッキー!」 「美希ちゃんには関係ないじゃない。」 驚くほど、冷たく硬い声が出た。美希が少し青ざめ、言葉を無くしている。 それもそうだろう。今まで、祈里は美希にこんな態度を取った事はなかった。 自分が美希を動揺させてる。そう考えると祈里は少し可笑しくなった。 一人っ子の祈里やラブにとって、美希は同い年でも頼れる姉のような存在だった。 今までずっと、何か困った時は美希に相談。解決なんか出来なくても、 美希に話すだけでなんだか心が軽くなる。 きっと美希は、今回もそのつもりだったんだろう。 祈里が話せないなら自分から聞こう。話してくれれば、何か変わるかも。 自分になら、話してくれるはず。 「……関係なくなんか、ないわよ。」 美希は奥歯を噛み締め、動揺を飲み込む。 ラブの話から今までの祈里のようにはいかないのは分かってたはず。 怯んだら、負けだ。 確かに自分には関係ないかも知れない。 でもこのまま仲間がバラバラになるのを黙って見ているなんて出来ない。 「アタシ達、仲間じゃない。心配しちゃいけないの? 何があったか知りたいって思うの、当たり前じゃない。」 「……知って、どうなるの?美希ちゃん、どうにか出来るって思ってるの?」 それに、もう知ってるんでしょう? 取り付く島もない祈里の言葉。 美希は、今の今まで半信半疑だった。事前にラブの話を聞いても。 あの時のラブの壊れかけた様子。実際に倒れてしまったせつな。 最初に祈里がせつなを脅してたのでは?と言ったのも自分だ。 それでも、まさか祈里が……。 そう思う気持ちが確かにあった。 「ラブちゃんに聞いたんでしょ?だったら、今さら私に聞かなくたって。」 祈里は伏し目がちに目をそらし、少し唇を尖らせている。 ベンチに座り足をブラブラさせてる様子は不貞腐れた子供みたいな仕草だ。 「……ブッキーの口から聞きたいの。」 何を考えてるのか。どう思ってるのか。祈里自身の気持ちが聞きたい。 「じゃあ、………」 祈里は俯いて肩を震わせる。 「じゃあ、…せつなちゃんが、本当に好きなのはわたし。って言ったら、 美希ちゃん、信じてくれる?」 わたしとせつなちゃんは愛し合ってるの。 でも、せつなちゃんはラブちゃんの家にお世話になってるでしょ? ラブちゃんを無下には出来ないの。 だから、こっそり会ってたの………。 「……嘘、でしょ…?」 美希は自分の顔色が変わるのを感じていた。 (だって……ラブは……。) でも祈里の言う事が本当なら……。頭が混乱する。 せつながこちらの世界で生きて行くのに全面的にラブが力になったのは本当だし…。 それに、ラブがせつなを愛してるのは間違いないだろうけど、 せつなはどうなの?アタシ、せつなの気持ちは聞いてないし……… 「うん、嘘。」 「……え?」 「だから、嘘。そんなわけないじゃない。本気にしたの、美希ちゃん?」 祈里はさっきとはうって変わって、からかうような目で美希を覗き込んでいる。 今にも吹き出しそうな、イタズラに成功した子供のような……。 カァっと美希の体温が上がる。 真剣に、話を聞こうと思ってたのに。今日までどれだけ神経を磨り減らしたか。 「フザケないでよっ!」 涙が出そうになる。目の前にいる、この子はなんなの? アタシの知ってるブッキーじゃない。ラブも、せつなも、こんなふうに感じたの? ブッキーは、こんなふうに人の真剣な気持ちをはぐらかす子じゃない。 大人しくて、引っ込み思案で、でも人の気持に敏感で思い遣りのある…… 「騙して呼び出してね、無理やりヤッちゃったの。 せつなちゃんが抵抗出来ないようにして。」 崩れ落ちそうになってる美希に構わず、祈里は喋り続ける。 「その後はお約束?この事バラされたくなかったら、言う事聞けって。」 せつなちゃん、今の美希ちゃんみたいな顔してたわよ? これはいったい誰なの?って感じの。 「簡単過ぎて拍子抜けしちゃった。せつなちゃん、一旦気を許した相手だと あり得ないくらい無防備になっちゃうみたいね。」 一度ヤッちゃえばね、まるでお人形さんみたいになっちゃったの。 ラブちゃんの名前出すとね、何でも言う事聞くの。 呼び出せばいつでも来るし、服を脱げって言ったら泣きながら脱ぐの。 ベッドに寝かせて、足を開けって……… 「やめて!やめてよ!!!」 「何よ、美希ちゃんが話せって言ったんじゃない。」 つまり、そう言う事したの。酷いでしょ?せつなちゃん、倒れても仕方ないわ。 むしろ、よく今までもったって思うわよ。 熱に浮かされたように喋り続ける祈里を、美希はただ呆然と見ているしか なかった。 「ほんっと、酷いわよね。わたしだったら死にたくなっちゃうかも。」 「……ブッキー………。」 言葉を無くし、魂の抜けたような顔をしてる美希を、いっそ憐れむように 祈里は見つめる。聞きたくなかったろうな。こんな話。 「……どうしてよ。せつなが、……好きだったんじゃないの?」 「美希ちゃん、わたしってね、小さい頃から結構いい子だったと思わない?」 突然、関係ない事を話し出す。 「お友達とケンカするくらいなら自分が我慢したし、我が儘だって言わないし。」 でも分かっちゃった。わたし、全然いい子でもないし、我慢なんてした事なかった。 臆病なのは、人とぶつかって傷付くのが面倒だっただけ。 引っ込み思案の人見知りでいれば、何も言わなくても、ラブや美希が庇ってくれた。 誰かと争ってまで欲しいものなんてなかったし、傷付け合うほど 本気で分かり合いたい人もいなかった。 ラブと美希がいれば、他に親友なんて必要なかったし。 だから、初めて本気で欲しいと思ったものに出会った時、 どうしていいか分からなかった。 ただ遠くから眺める事しか出来なくて、気が付いたら、 それはとっくに人のものになっていた。 欲しいもののために戦った事なんてなかった。 だから我慢の仕方なんて分からない。 手に入らないものの諦め方、そんなの誰も教えてくれなかった。 ほんの一時でも、盗んででも手に入れられれば、気が済むかと思ったのに。 「ダメだったの。どんどん欲張りになっていっちゃったの。」 体だけでいい。ほんの一時わたしのものになってくれればいい。 傷付けたって、痛め付けるつもりなんてなかったのに。 せつなを当たり前のように独り占めしているラブに腹が立った。 どれだけ体を重ねても祈里を無視し続けるせつなに苛立った。 ラブに返すくらいなら壊してしまおうか。 ボロボロに汚されたせつなでも、まだラブは抱き締めるのだろうか。 違うな、と思う。 ラブはせつなが汚れたなんて思わないだろう。 祈里だって自分が一番よく分かってる。せつなを汚す事なんて出来なかった。 せつなを汚そうとした分だけ、自分が汚れただけだ。 「せつなちゃんね、あんな事されたのに、まだわたしが好きって言ったの。」 好きだから、もうやめるって。わたしの事、悪く思えないんだってさ。 自分を嘲るかのような祈里の口調。 胸が痛まないはずない。好きな人を自分で傷付けて。苦しめて。 平気でいられる人なんていないだろう。 「………後悔、してるんでしょ?」 美希はやっとの事で声を絞り出す。 よく知る幼馴染みの口から出る。生々しい罪の告白。 予想以上のダメージを受けてる自分がいる。 話を聞いただけでこれだ。ラブやせつながどれほどの傷を受けたのか、 想像も付かない。 「ずっとね、考えてたの。謝らなきゃいけないって。」 許してもらえなくても。自分がした事は理解してるつもりだから。 「だったら………!」 「でもね。わたし、後悔なんてしてないのよ。」 ずっと考えてた。この胸の苦しさは後悔なのか。 せつなを傷付け、ラブを裏切った事を悔いているのか。 答えは否だ。 後悔なんてしてない。あのまま想いを押し殺していれば、 せつなは今も微笑んで隣にいてくれた事だろう。 ラブとふざけ合い、美希に甘え、それはそれは幸せな時間。 それと引き換えにしても、せつなに触れたかった。 初めてその唇に触れ、柔らかな肌を抱き締めた時の歓喜を思い出す。 吐息を感じ、熱を共有した。 心には最後まで触れる事は出来なかった。 それでも、せつなの体に刻み込まれた祈里の記憶はこれからも消えない。 ラブだけのものではなくなった。 その事に、確かに喜びを感じている自分がいる。 例え時間を巻き戻せたとしても同じ事をするだろう。 「後悔……、出来たらよかったのに……。」 祈里は天を仰ぐ。涙がこぼれないように。自分には涙を見せる権利などない。 心底から悔い、本心から謝ればラブもせつなも許してくれるだろう。 例えすぐには元に戻れなくても、許すため、距離を埋めるために 努力し、祈里を受け入れてくれただろう。そう言う子だ。 だけど、今も祈里の中には邪な欲望が渦巻いている。 ラブとせつなを見ている限り、それが消える事など想像出来ない。 そんな謝罪に何の意味がある。 また、同じ事を繰り返すだけだ。 「後悔して、反省して、謝りたかったよ。泣いて、すがって、 それでお仕舞いにしたかった。」 でも、無理なの。 せつなは祈里の呪縛を振り切った。 ラブの元へ戻り、ラブも受け入れたのだろう。 もう、あの二人を引き離す事など出来ない。 未だ大人には遠い自分には逃げ出す事も出来ない。 この町にいるかぎり、見続けなければいけない光景。 せつなも、ラブも、もしかしたら目の前の美希も、二度と祈里に 微笑んでくれないかも知れない。 自分には相応しい罰だ。 深く暗い、水底に沈んでいくような祈里の姿。 美希はただ呆然と立ち竦む事しか出来なかった。 掛ける言葉など見付からない。 祈里は自分のした事を充分過ぎるほど理解している。 理解していながら、後悔していないと言う。 せつなの傷。ラブの悲しみ。祈里の闇。 どれも美希にはどうしようもないものに感じた。 罪を分かっていながら、救いを拒む罪人。 美希は唇を噛み締める。自分の無力さが、悔しい。 なんとか出来るかも知れない、そんな自分の思い上がりに臍を噛む。 美希もまた、力無い子供でしかないと言うのに。 5-351へ